2018年9月14日金曜日

渡辺あやさんとワンダーウォール

近ごろ京大吉田寮にほんのりとお邪魔している。

スケッチをさせてもらっているのだ。

絵を描く行為は「画面に記録する」以上に、目と体が一体化して、ものすごい量の情報や経験を吸い込むことができる手段だと思っている。
つまり私はそのためにも出入りさせてもらっているのだろう。あの空気を吸いに行っているのだ。


9月末に京大から退去期限を通告された吉田寮をモデルとしたNHKの京都放送局発ドラマ「ワンダーウォール」がBS放送され、小さなムーブメントはツイッターなどで拡散されて広がりをみせておりついに再々放送が地上波でされることが決まった。

吉田寮内もイベントが活発化し、寮生が一般の人に寮内を案内するツアーを行ったり、これまでに関わってきたミュージャンが食堂でライブを行い、それをたくさんの人が見に行くとなど、それぞれがそれぞれの方法で問題を大きくし、より多くの協力を集めながら寮を守ろうとしている。


吉田寮は寮だ。

だからあくまで寮に住まう人たちが主役である。
しかしすでにその存在は単なる寮を超えてそれを守ろうとしている人それぞれのなにか「大切なもの」の象徴となっている。
吉田寮を守ることは、ムダがとことん排除される世の中で、なんとか「ムダ」の中に含まれる大事なもの、それぞれの心の居場所を確保することそのものであり、それぞれが当事者意識をもって行っているように思えるし、きっと外部とのコミュニケーションが苦手な住人たちでも最後の手段としてそれを受け入れることで取り壊しを阻止しようと積極的に動いている。

わたしもなにやら自分自身がぽっかりと空いたこのタイミングで出会うべくして出会ってしまった、そんな感じだ。



ワンダーウォールの脚本を手がけたのは、朝ドラのカーネーションの渡辺あやさん。


渡辺あやさんの作品との出会いの初めは、「ジョゼと虎と魚たち」だった。

なんとなくレンタルしたのだが、正直、当時私の好みではなかった。覚えているのは江口のりこさんがすごい女優だなぁと思ったくらい

そこからしばらくあいて次はテレビで放送されていたドラマの「火の魚」。

これはなんだか観た直後はそれほど大きな衝撃ではなく、じわじわ印象に残って離れなくなった。わたしはこの作品で初めて尾野真千子さんを知った。
その時の演技がとても印象的で。

彼女はカーネーションの主役も務めた。

その時の演技も素晴らしかった。他の俳優さんの演技も素敵だった。
そしてやはり脚本がよかったのだ、どうしても離れないシーンがあった。

戦争から帰ってきた心を病んだ幼馴染の母親(濱田マリさん演じる)が主人公の尾野真千子演じる糸子の家に土砂降りと雷の中すごい形相で怒鳴り込んでくるシーン。


あんたあの子になにゆうたんや、あんたの前向きさは今のあの子には毒や


というかんじのセリフだったと思う。その時の濱田マリさんの演技はもの凄い迫力だった。

また、さらに、印象的だったのは、糸子がそのことにショックを受けつつも、

私は私で生きて行かなあかんねん


と、それを振り払って進んで行くのである。


視点が行ったり来たりする。

それぞれの気持ちがあってどうしようもなくそうなっていってしまう、
ワンダーウォールもそんなドラマだ。
明確な悪者は描写しない。
でも何かそれぞれが考えさせられるものになっている。
物語の核から、そして小さなエピソードのひとつひとつから。


それぞれが渡辺あやさんの脚本、ということは実はつい最近知った。



わたしが心掴まれるもののツボのなかで自分自身自覚がある感覚、

それは映画やドラマに限らず。
わたしはその感覚を「透けた眼差し」と呼んでいる。
目の前の社会のことを見透かしてもっと向こう側を捉えている。虚無感であり、自由であり、命や宇宙といった身近で遠いものの存在と、それを映す小さな現実だ。


渡辺あやさんはそういうものを丁寧に描こうとする脚本家、なのだと思う



脚本、演技、監督

全ての人にその視点がある時、
奇跡的に生まれるもの。

そういうものは最近少なくなってきているのかもしれない。大人の事情をなぎ倒してでも良いものを作りたい、という熱量。

そういった意味でもワンダーウォールは貴重な作品だ。



整然とした綺麗でわかりやすい形を求められる世の中ですうっと消えてしまいそうななにかを
消えないで!と手の中に握り締めようとする気持ちが今回のこの吉田寮を取り巻く一連の動きに働いているように感じる。
私などは求心力も説得力もあるわけでなく吹けば消える小さな存在だが、「人が何かを思う」ということはそれだけですごいことなのだと常々考えているので、私の気持ちが動いていることも自分なりに尊重してみようと思ったのだ。



来週の月曜日、今から3日後、

地上波での放送、楽しみにしている。

9月17日(月・祝)ドラマワンダーウォール

NHK総合
14時〜

わたしもテレビがないので今回は実家に帰って観ます。

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